脱僕に失敗した僕

日本語の一人称はとても多い
ジェンダーや年齢、状況により使い分ける

男性の場合は、日常会話では「僕」「俺」「私」「わし」「自分」あたりがメイン
エッセイや小説、論文、手紙などの書き物になると、さらに「筆者」「小生」「当方」などなど

いろいろあるけれど、昭和後期から平成にかけて育った僕のころは

僕(子ども)→俺(中学生〜)

が基本だったように思う


だいたいみんな、思春期あたりで脱僕して呼び方が変わる
親の呼び方が変わるのとパラレルに

ママ・パパ → お母さん・お父さん
外では、おふくろ・おやじ
関西の人はおかん・おとん


そして、コミュ障陰キャだった僕は、見事に脱僕のタイミングを逃した


「俺」というのがイキッてる感じがしてなんだか気恥ずかしい
でも「僕」というのも幼い感じがしてちょっと使いにくい
一人称がなくなった

日常会話って一人称がなくてもなんとなく成立する
それでも使わないといけない場面はある
困った


仕事をはじめて「私」 という一人称を手に入れた
なんだか大人になった気分
便利な言葉だ

社会に出てからひととの距離感がわからず、後輩でも誰にでもほぼ敬語だった僕には最適な一人称
丁寧だけどちょっと距離がある感じ
相手との間に壁を作れる

壁の内側「僕」「俺」 | 壁の外側「私」

でも壁の内側のひとと話すとき、「僕」を使うのも「俺」を使うのも気恥ずかしいことに変わりはない


30も半ばを過ぎてからだろうか
吹っ切れてきた
石原慎太郎さんとかは記者会見でも「僕はね〜」と言ってるし
僕も脱僕を諦めた


ごくごくたまに 気を許したひとと話してるとき、「俺」が飛び出すことがあって、自分でもびっくりして少し恥ずかしいときがある
どう取り繕っていいのかわからない

吹っ切れたとはいえ、今でも悩み気恥ずかしい思いをしながら使う「僕」
仕事で知り合ったけどある程度仲良くなった相手とか、古い知り合いとか、兄弟とか、明らかに「私」じゃおかしいだろって相手と話すとき
でも「僕」でいいやと思えるほどまで親しいわけじゃないとき
「俺」ならしっくり来るんだろうけど、どうすればいいのかね

家族とか兄弟と話すときも、やっぱり「僕」はなんだか気恥ずかしい
「あたしは」とちょっとふざけて言ったり、「おじさんは」「おっちゃんは」と言ったり
子どもがいないから「お父さん」は違うしなー


親の呼び名も同じ
キリスト教家庭で育った僕は、当たり前のように「ママ」だった

中学生のころだっただろうか、兄弟が多かった僕たちが「ママ、ママ」言っているのを聞いて、お姉ちゃんが「スナックやクラブみたいだね」とか、はっきりと覚えてはいないけれど、そんなことを言って笑っていた
中学の同じクラスの女の子が「ママ」と言っているのを聞いて、「あ、ママって言うんだ」と思ったことも覚えている


僕はもちろん、脱ママにも失敗
同居しているときは、一人称がなくなったのと同じように「ママ」がなくなった
二人称がなくても会話は成立する
外では「母さん」とか「母」でいい

でも兄弟で電話したりメールするとき、なんて言う?
LINEとかで兄もおんなじ葛藤抱えてそうだなってのがなんとなくわかって、少し面白かったりする


結局は、僕はこのまま僕でいくんだろう
例えば老人ホームに入って仲良しさんができたとしても
僕はまた「僕」と少し気恥ずかしい思いをしながら言うのだろう

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