真夏の怪談

僕は、身体がすくすく大きくなったからか、成長期には金縛りによくあった。
キリスト教家庭に育ったので、子どものころはそれを悪霊のしわざだと思っていた。
だから、金縛りになると「主イエス・キリスト名において命ずる。悪霊よ去れ!」と心の中で唱えたりした。
中二病真っ盛り。
でも、中学生になったくらいで教会にも行かなくなり、霊の存在も信じなくなってきた。
幽霊なんていないし、怖くないし。


そんな僕だけど、若いときに2度だけ、ちょっと心霊的な体験をしたことがある。

※閲覧注意?


「火がつかない」事件

僕らの時代、18歳になって車の免許を取る人が出てくると、車でみんなで心霊スポットに行くのが恒例行事となっていた。
僕は、怖いわけじゃないけど、あまりそういうのに興味がなかった。怖いわけじゃないけど。
まだ心の中にはキリスト教的なものが残っていて、日本式の幽霊を信じていなかったし、遊びでそういうところに行くのはよくないとも思っていた。
なにより、そんな友達ほとんどいなかった。

そんな僕だったけど、あるときいつものように、友達数人とバイクで流していた。
その日はちょっと遠征をしていて、いつもは行かない森の中。
クネクネした道を走っていると、先頭のやつがいきなりバイクを停めた。
「あそこ、心霊スポットあるの知ってる?」
そいつは18歳で車の免許を取り、心霊スポット巡りをした正統派の陽キャ。
付近の心霊スポットは網羅している。
お前、最初からここが狙いだっただろ。

道から少し外れたところに、一軒家の廃墟があった。
それが、有名な心霊スポットらしい。
たしかそのとき5人くらいいて、2人は行かなかった。
「いや怖えーよ。やだよ。」
素直に言えたのは、高1からの友達、料理人君だ。
心霊スポット好きのくせにビビりの言い出しっぺも居残り組。
自称感情がない男だった僕は、怖いとか言えない。
いや、本当に怖いと思わなかった。
行くまでは。
真夜中の森の中は真っ暗。
居残り組にバイクのライトで照らしてもらいながら、その家へと藪の中を歩く。
家のドアは開いていて、誰でも中に入れた。
不法侵入。
そして、バイクのライトも届かないので、当時スモーカーだった僕たちは、ライターで火をつけ、明かり代わりにする。
家の中は、生活感あるまま。まさに廃墟で、いろいろなものが散乱していた。
めっちゃ怖い。
雰囲気ありすぎる。
特になにを見つけるでも、ポルターガイストが起きるわけでもなく、小さな家だったのもあり、おそらく滞在時間は数分。
内心びびりまくっていても、外に出ればもう大丈夫。
平気な顔で戻り、地元のコンビニへと帰った。
事件は、そこで起きた。
一服しようとタバコをくわえ、さっきの100円ライターで火をつける。

カシャッ、カシャッ

何度丸いところを回しても、火がつかない。
火花は間違いなく散っている。
料理人君のライターは普通についたので、試しにガスを出しながら近づけると、ちゃんと火がつく。
でも、単体で幾ら頑張っても、火がつかない。
最初にあそこでバイクを停めた不埒者によると、あの心霊スポットあるある現象らしい。
懐中電灯でもライターでも、あそこに持ち込むとつかなくなる。
僕はその100円ライターを捨てた。
Zippoとかじゃなくてよかった。


「おじいさん」事件

同じ頃のあるとき、僕たちは車1台で真夜中のドライブを楽しんでいた。
あの不埒者は車が大好き。
たしか古いブルーバードのバンで、持ち主の不埒者が運転手。
助手席は料理人君。
後ろの右側に僕。
左側に、背が低く目つきが悪いのでよく不良に絡まれてしまう、Nちゃんが乗っていた。とってもいいやつだ。
僕たちが住む町を抜けて、山の方へ向かうと、途中に家がほとんどない、寂しいエリアがある。
ほぼ森、山の中。
国道だけど片側1車線で、緩やかなカーブが続く道だ。
途中に有名なゴルフ場の入口があって、そこを過ぎてしばらく走ったとき、Nちゃんが言った。
「今の人なんだろうね」
時は丑三つ時。
こんな寂れた民家もない場所に、人がいるのはおかしい。
Nちゃんによると、白い服を着たおじいさんが、左側のちょっと入った建物があるところの入口に、立っていたらしい。
Nちゃんを除く3人とも、ビビり。
いつも夜中にこの道を通るときは、その建物のことは横目でチラチラ気にして通る。
今回も、もちろんそう。
3人とも、直視はしないように、でもしっかりと、そっちを見ていた。
だってそこは、火葬場だから。
でも、3人とも、おじいさんなんて見ていなかった。

「え?嘘でしょ?そういうのマジやめろよ!絶対いたって!」

Nちゃんは心霊現象なんて経験がなかったらしく、涙目になっていた。
でも、本当にいなかったんだ。
僕たちはもう、ドライブを楽しむどころではなかった。


そして、霊的な体験ではないけれど、僕は少年時代にとてもビビったことが2度ある。


「カーテンの隙間」事件

僕が小学生のとき、夏になると、心霊関係の特番がテレビで放送されるのが定番だった。
お化けを信じていなかった僕は、特にそういう番組を怖いとは思わなかった。
だって神様がいるから。
キリスト教家庭に培養された純粋な少年だった。
でも、心霊特番と並び、UFOとかUMAとか、未知との遭遇関連特番も定番だった。
こっちは怖い。
だっているかもしれない。
聖書に「宇宙人はいない」って書いていない。
そのときの番組では、宇宙人にさらわれた人がUFOの中でなんかされたとか、そんなことをやっていた。
あのグレイとかいう宇宙人。
灰色で、顔が逆三角形で、目が大きいやつ。
あれ、絶対怖がらせるための造形でしょ。
めっちゃ怖い。

そのとき、テレビの向こうの引き違い窓のカーテンに、隙間があるのに気づいてしまった。
ただの隙間。
でもその隙間から、暗い夜空が覗いている。
あいつ、その隙間から覗いてる!絶対あの目でこっち見てる!
もちろんいないんだけど、隙間があるだけで、少年の僕はビビりまくっていた。


「ポルターガイスト」事件

あるとき、「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」をゲットした僕は、伝説になるための鍛錬を日々欠かさなかった。
そう、ゲームを遊びまくったのである。
学校なんて行ってる場合じゃない。
もともと、教育テレビの昼の番組の歌は全部覚えてしまうくらい、学校に行かない子どもだった。
父が蒸発し、僕たちを育てるために働きまくっていた母は、もちろん家にいない。
他の兄弟達はみんな学校に行っている。
僕だけの世界だ。
お金を稼ぐだけでも精一杯だった母には、子どもだらけのこの家を常に綺麗に保つなんて不可能だ。
つまり、部屋は散らかっていた。
そして、その散らかった家の2階の部屋で、僕は14インチのブラウン管テレビにつないだファミコンに夢中になっていた。

そんなとき、部屋の奥の方から、音が聞こえる。

「カタンッ、カタンッ」

一定の間隔で。
空耳じゃない。
それなりに大きな音だ。
フリーズした僕は、そっちを凝視するも、散らかった部屋ではよく見通すことができない。
原因不明。

兄が飼っていてどっかに消えたシマリスが帰ってきた?
あれはもう何年か前だしありえない。

兄がお祭りでとってきた元ひよこ?
あいつらももういなくなったはずだ。

ネズミにしては音が大きい。
とうとう僕の恐怖心は決壊を迎えた。
ドラクエよりも、怖いが勝った。

僕は1階に逃げ、隅っこでブルブル震えていた。
兄が学校から帰ってくるまで。

兄が帰ってくると、僕は兄にすがりつく。

「なんかいる!なんかいる!」

あの音は、ずっと、かすかに1階まで聞こえていた。
兄が2階に行くと、すぐにロボットを持って降りて来た。
それはルンバのはしりのようなおもちゃで、前に進んで何かにぶつかると、ちょっとバックして向きを変え、また前に進む。それを繰り返すだけの、単純なロボットおもちゃだ。

あきらかに、こいつの仕業だった。

これも兄のおもちゃだ。
まったく兄め、余計なことばかりしやがって。
一件落着だったけど、なぜロボットのスイッチが入ったのかは、わからないままだった。

コメント