初台と代々木公園 後編
初台に住んでいるときは、新宿5丁目の職場、北参道のお客さんのところに常駐、自宅勤務、渋谷のお客さんのところに常駐、そしてまた自宅勤務と職場が変わった。
新宿の時は、自転車でも通勤したし、徒歩通勤もした。
歩くときは、新宿中央公園を通る。
杉並に住んでいる時から、自転車で新宿に行くときの休憩場所として、新宿中央公園にはよく行った。よく寄って行ったけど、なんだか淀んだ暗いイメージがある公園だった。
あるときベンチでゴロンと寝転がり空を眺めていると、警備員が走ってきて、「寝る場所じゃない!」と高圧的に怒られた。東京の公園はゆっくりすることも許されないのか…。ホームレス排除のために警備員を税金で雇ってるのだろうか。
そんなこともあって、この公園があまり好きじゃないのかもしれない。
北参道に通っていたときは、徒歩のときは明治神宮に寄り道していった。
参宮橋のポニー公園でポニーを眺めてから神宮に入る。本殿をまわってから北参道出口へ。
通勤とは関係なくでも明治神宮によく行った。ここにはタヌキも住んでるし。オオタカまでいるらしい。タカは残念ながらここで見ることはなかったけど。
明治神宮は、原宿の正門から行くと人がいっぱいだけれど、参宮橋や北参道から行くと人がまばら。大きな芝生広場もあるし、森の中の道もある。特に雪の日は大雪原、とまではいかないけど、都心とは思えない自然が広がっていた。
新宿の会社を辞めてフリーランスとして1年弱の自宅勤務を経た後、渋谷のお客さんのところで常駐で働くことになった。
片道1時間くらいかけて、ゆっくりと歩いて通勤。
初台から代々木公園を抜けてNHKの前を通り渋谷へ。
時には遠回りして明治神宮を通ってから渋谷へ。
今度は代々木公園が僕の庭になった。
そして、「通勤時間って大事!」って思った。
自宅勤務だと寝て起きて仕事して寝る。まったく外にでない日も多い。
通勤があると、嫌でも外に出る。そしていっぱい歩く。この気分転換と軽い運動が、とっても気持ちが良かった。今はまた何年も家に引きこもっているけれど。。
ちなみに、明治神宮と代々木公園は隣り合ってるし、くっついているけれど、植生がまったく違う。渋谷の職場は高層ビルのかなり上の方だったから、そこから見ると境目がひと目でわかった。明治神宮は常緑樹ばかり、代々木公園は落葉樹ばかり。冬場にみて青々としているのが神宮、枯れているのが代々木公園。
代々木公園もよくお散歩したし、隅々まで歩きまくった。
よくカラスに襲われたのはこの森の中だ。
代々木公園には大きなドッグランがあって、よくドッグラン外のベンチで犬を眺めてぼーっとしていた。他人から見れば十分に不審者だっただろうけど。
立派なサルスベリや皇帝ダリア、桜、梅、バラ、いろいろな植物があるし、バードサンクチュアリもあって野鳥観察も楽しめる。
毎日のように代々木公園を通っていた僕は、代々木公園でいくつかの印象的な出来事があった。
代々木公園の中には、一本道が通っている。
北側がいわゆる代々木公園。南側には、代々木競技場や野外ステージもあるイベント広場、陸上トラックやバスケコートがある。
この道を渡る2本の陸橋があって、バスケコート側の陸橋は寂れている。僕は渋谷に向かうときはそちらを通り、帰りはイベント広場の方から陸橋ではなく横断歩道で渡ることが多かった。
ある朝いつも通り通勤で寂れた陸橋の階段を登ると、そのとき世間で話題になっていた青い服を着た人たちがなんか軽く運動している。日本代表のコスプレ集団?と思ったら、テレビとかでよく見る僕でも知っている代表の人の顔。たぶん本人たちだ。僕は引き返すわけにもいかず、うつむきながら集団の中を通った。「え?日本代表の人たちがこんな公園の路上でトレーニングしてるの?」と戸惑いながら。
仕事を終えて帰るときも、代々木公園を通る。
仕事帰りは頭の中ではまだ仕事をしていて忙しいことが多く、代々木公園で自然に触れてやっと仕事脳から切り替わる。
あるとき、いつものように頭の中でひとり反省会を開催しながらイベント広場まで来たとき、仕事で重大なミスをしていることに気がついた。翌日公開されるページにミスがある!何億PVもあるサイトで、このまま朝を迎えたら重大インシデント、間違いなく皆様に大きな迷惑をかけ、親会社に呼ばれ、いろんな人が嫌な思いをすることになる。急いで引き返し、真っ暗なオフィスに入り修正し、事なきを得た。ひとり反省会も、たまには役に立つようだ。
そんな感じで夜もよく代々木公園を通った。
イベント広場の陸橋から帰ると、まっすぐ行くと噴水池。その前の道はレンガと水の造形があって、腰を掛けることもできる。そこによく、黒人さんたちの集団がいた。ジャンベ(アフリカの太鼓)まで持ち寄って、みんなで楽しそうに歌っている。夕方ぐらいによく見たけど、彼らは何者だったのだろうか。
そして代々木公園で一番怖かった体験が、カラスによる襲撃ではなく、ポケモンGOだった。
いつものように暗い代々木公園に入ると、青白い街灯の下で無数のゾンビがウロウロ彷徨っていた。ポケモンGOユーザーだと気づくまで、いや気づいてからも、ウーウー言いながら彷徨い歩くゾンビ映画に出てくるゾンビそのもの、都会のホラー。暗闇の中スマホの青白い明かりに照らされ仄かに浮かび上がる顔、顔。僕は静かに距離を置き、さらに暗い森の中をとぼとぼ歩き家路を急いだ。端から見れば僕の方が怖かった?
初台での4年間の生活は、なかなかに充実していたとも言える。
仕事もフリーランスとしてそこそこ順調、勉学もはかどっていたし、ひとりでクラシックコンサートに行ったり、展覧会にもいっぱい行って、ソロ活もそれなりに。
そして僕は、東京はそろそろいいかな、とも思い始めた。
この仕事なら東京にこだわる必要はない。
次引っ越して東京を2年か4年満喫したら、どこか遠く、山奥のぽつんと一軒家でも買って、細々とひとりで生きようか、そう思った。
最初は杉並、次に渋谷(初台の住所は渋谷区だった)、最後は記念にもっと都心に住もう。
そして僕は、また物件探しを始めた。
学業に軸足を置きたかった僕は、国会図書館と三田メディアセンターに徒歩で通える場所を探した。
見つかった候補は3箇所。
ひとつは、飯倉片町交差点近くの麻布台にある地下物件。
とにかく暗い、地下なので湿気が凄い。ベランダみたいなところがあるけどそこも半地下。
都心とはいえ一本中に入った住宅街で意外と静か。
気に入った僕は早速申し込むも、何やら現在の法に適合していない部分があり補修に半年ほどかかることが判明。待って頂けるならありがたいですが…ということだったけれど、初台の契約も切れるし待てなかった。
次に、芝の商店街の中にあるマンション1階の物件。浜松町駅も近く芝離宮も浜離宮もすぐに行ける。でも、内見をしてみたら、ベランダがあるところのすぐ前が通りになっていて、人通りが凄い。たぶんベッドを置いたら、カーテンとガラス窓越しではあっても、枕から1m以内のところに人がいっぱい歩いている。僕には無理そうだった。
そして最後に、契約した東麻布のマンション。
このマンションは管理費込みで10万弱なのに、オートロック、宅配ボックス、24時間ゴミ出し、管理人常駐という、今までの僕が経験したことがないいい物件。部屋は小さいけれど、僕にはちょうどよかった。
こちらは不動産屋さんの担当になってくれたおじさんがとてもいい人だった。
契約終わってカギの受け渡しの後、そこでバイバイのはずなのにこのコミュ障の僕が一緒にお茶したぐらい。桜マニアの方で、春になると有給とるなり仕事辞めるなりして、南から北まで桜前線と一緒に旅をするという筋金入り。何かに夢中になってる人って輝いて見える。
東麻布のマンションの窓から見える空は、ビルの合間でとても小さかった。でもその小さな長方形に、オリオン座が薄く佇んでいるのが見えた。マンションを出て振り返ると、暖かい色の東京タワーが輝いていた。
港区男子(おじさん)として、僕の最後の東京暮らしが始まった。




コメント