魚担当

僕がまだ、かわいいぼーっとした子どもだった頃。
うちには、いくつかの図鑑があった。
有名な「学研の図鑑」だ。
よく覚えているのは、「動物」「鳥」「魚」「大むかしの動物」。
「宇宙」もあったかな。
そして、兄弟3人で担当が決まっていた。

なぜか次兄はこの輪に入っていなかったのか、僕の記憶にはない。

長兄は「鳥」。
三兄が「動物」。
僕が「魚」だ。

これ、なんだったのだろう。
別にその図鑑を独占しているわけでもないけど、なんとなく担当が決まっていたのだ。
何の担当?
わからないけど、僕は魚担当だった。


長兄はそのまま鳥好きに育ち、中学生になると「日本野鳥の会」に入会した。
あの頃僕たちの行動範囲内で見ることが出来た野鳥は、スズメ、カラス、ヒヨドリ、ムクドリ、ドバト、キジバト、セキレイ、ツバメ、などなど。
たまにオナガもみたかな。
あとは三兄が祭りで取ってきた元ヒヨコのニワトリ。
小学校の同級生の家で飼われていた軍鶏(シャモ)。
一度だけ、近所の原っぱの向こうの方、雑木林の中からキジが出てきたことがある。
綺麗な雄のキジ。
ちょっと遠かったけど、僕が見た野生のキジは後にも先にもこれだけだ。
キジの仲間のキンケイとギンケイは、最寄りのスーパーに行く途中のお家の檻の中で飼われていた。
長兄はきっと、いろいろな鳥を見てきたんだろう。
フィールドスコープや双眼鏡、カチカチ数える奴も持っていた。
カイツブリのぬいぐるみがあったから、水鳥が好きだったのかもしれない。
長兄は鳥担当の役目をまっとうしたのだった。


三兄は動物担当。
これは、なんというか、担当関係なく。
ヒヨコ、カメ、シマリス…、あれこれだけかな?
もっといろいろやってた気がするけど、僕が忘れただけ?
動物の図鑑でよく覚えているのは、種ではなく亜種。
ゾウはアフリカゾウとインドゾウがいて、アフリカゾウは大きくて耳も大きくてキバも長い、とか。
キリンはアミメキリンとなんとかキリンがいて、アミメキリンの模様は整っていて絵に描いたりした。なんとかキリンの模様はもっと複雑。何キリンだっけ?と思って調べたら、今はキリンが4種類だとか。当時はDNA鑑定がなかったから模様や生息地で分類していて、たしか2種類だったのに。いろいろと変わるのね。
サイもシロサイとクロサイ。カバはコビトカバがいる、とかいう風に、なぜか細かい分類が気になった。
これって今思うと、ASDの特徴なのかもしれない。
あとはブームになったエリマキトカゲも好きだったし、オオサンショウウオとかいう奇妙な生き物にはとても憧れた。
どの図鑑に載っていたのかは忘れたけど、プラナリアにもとてもワクワクした。
どこで切っても再生する脅威の能力。
半分に切るとそのどちらもが再生して個体数が増える。
すごい。しかもかわいい。今うちの茶色い犬が伏せをして視線だけでこちらを見上げると、いつも僕は「プラナリアだ…」と思っている。
近年の研究では、切断した尻尾の方の再生体も記憶が残っているとか。神秘。


いよいよ僕の担当、魚!
といっても特に魚好きなわけではない。
よく見ていたページは、メカジキ、トビウオ、マンボウ、アカエイ、そしてジンベエザメにシーラカンス。
何か目立った特徴があるやつが好きだったのね。
メカジキは鋭く尖った口先、時速100kmを超えるスピード、ロマンの塊だ。
仲間のマカジキもかっこいいし、バショウカジキの背びれもかっこいい。
釣りあげた人たちがドヤ顔で記念撮影するあの巨大な魚がカジキだと知ったときは、悲しかったな。
トビウオは魚のくせに空を飛ぶ。しかも大群で。こちらもロマン溢れていた。
マンボウ。あの巨体と数々のエピソード。ぼーっとしていてちょっと親近感まで感じる。
アカエイ。表が硬派なのに裏がユーモラス。変な形。なのに猛毒のトゲがある。
そして、ジンベエザメ。
体長18m。大きいというのはそれだけで畏怖の対象となる。
クジラはなんというか、畏れ多すぎて遠い存在?神話のような。
ジンベエザメは、顔も可愛いし模様も可愛い。
なんか近所のおじさん的な、近いイメージがある。
しかも口を開けて泳ぐだけで、口に入ってくるプランクトンを食べる。
食生活も可愛い。
一番好きな魚だ。
次に、生きている化石、シーラカンス!
シーラカンサスとどっちだっけ、と思って調べたら、昔の図鑑にはシーラカンサスって書いてたらしい。
化石の存在で絶滅したと思われていたのに、生きている姿を発見。
当時の人はどんなにワクワクしたことだろう。
1億年前の化石と今の姿がほとんど変わらない生きた化石。
手足みたいなひれ。
少年の心を多いに刺激するロマン溢れる存在だった。

ということで化石。
化石を掘りに行きたかったな。
どこかで数百円で買った小さなアンモナイトに化石も持ってた。
アンモナイトそっくりのオウムガイの写真もよく見た。
こちらも生きた化石。
どの図鑑だったか忘れたけど。
またまた生きた化石のカブトガニも、少年僕の心を大きく揺さぶった。
あの変な鎧みたいな殻。エイリアンみたいな本体。青い血。
あんな生き物が砂浜歩いてるなんて、一度見てみたいとずっと思ってた。
日本にもいるんだよね…


最後に、大むかしの動物。
マンモスやナウマンゾウ、サーベルタイガー!
なんてロマン溢れるのだろう。
こんなのが本当に生きていた。
恐竜で一番好きなのはステゴサウルスだった。
背中に並んだ放熱板みたいなの。なんの意味があるんだろう。
プテラノドンはもっと大きいと思っていた。
ブロントサウルスは大きすぎて僕のキャパ超え。
なぜかティラノサウルスにはあまり興味がなかった。

と、魚とまったく関係ない話ばかりになったけど、子ども時代の僕は図鑑で世界を知った。
ビデオもないし、専門の博物館に行く余裕もない。
図鑑には真実と知識とロマンが詰まっていた。
今でも図鑑を見かけると、ちょっとワクワクしてしまう。

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