日吉のオムライス

食というのは、一日の彩りらしい。
仕事でも学校でも、午前中は「お昼なに食べようかな」と頑張る。
午後は「夕飯なにかな」。

僕にとって食はただのエネルギー補給だったけれど、それでも美味しいと思うものはあるし、その時の気分によって食べたいものも食べたくないものもある。
ベジタリアンになってから外食は消去法になった。
お店もどこでもまず食べられるかどうかをみて、選択肢が残っていればそこから食べたいものを選ぶ。

慶應通信の夏スクーリングでは、午前のコマと午後のコマがある。
どちらも取っている日は、午前の授業が終わったら学食に駆け込む。
多くの通信学生さんが同じ時間に駆け込むからとても混雑する。
午前の授業修了の時間が近づくとみんなソワソワし始めるのは高校時代と同じだった。
定時より少し早めに授業が終わると、少し得した気分で学食に早歩きで向かいながら、みんな少しその先生を好きになる。
定時を少しずれこむと、もう諦めてゆっくりと向かう。

午前のコマだけのときに授業が早めに終わらなかったときは、メディアセンターで予習復習をして時間をずらしてから学食にいく。数量限定の日替わりとかはもう売り切れだけど、ゆっくり選べる。でも時間をずらし過ぎると学食が閉まってしまうから要注意。

午後のコマだけのときは、みんながまだ午前の授業をしているガラガラの時間に行って、ゆっくり選んでゆっくり食べる。どうぜ朝からメディアセンターで勉強しているし。

夏スクーリングは3期あって、1期6日間みっちり通う。
たしか1期と2期は日吉で、3期が三田。
だからか、夏スクーリングといえば日吉のイメージがある。

食べる場所は学食の他にもいくつかあるし、駅の反対側には飲食店もいっぱいあるけれど、スクリーングでは学食しか行ったことがないかもしれない。面倒くさいし安いから。

日吉の学食は1階が生協運営のビュッフェ形式で三田と同じ。
お盆を持って好きな料理を乗せてお会計。

2階はフードコートのように複数店舗が入っていて事前に食券を買う。
うどん屋さんや、ラーメン屋さん、丼物屋さんなど。
あと階段の近くに小さなパン屋さんもある。生協の1階にもコンビニみたいにパンが売っているから、それを買って外や午後の教室で食べることもある。

2階に入るとガラスケースにサンプルがあって、日替わりメニューがあるお店はそこで今日のメニューがわかる。
僕はいつもまず2階のここに行って、オムライスを見るのが日課だった。
オムライスはいつも2種類あって、ひとつは定番のデミグラスソース。もうひとつが日替わりでいつも違う。デミグラスソースはがっつり動物性なので選ばない。だからもひとつが重要だ。
日替わりソースがホワイトソースだと大当たり。ゆるベジだから乳製品はかろうじてOK。
ホワイトソースじゃない日も、日替わりが食べられるメニューのときはいつもオムライスだった。

オムライスのお店は一番手前にあって、そこに食券を出すとその場で作ってくれる。
アメフトのボールを半分に切ったような銀色の容器にご飯を入れてお皿に置くと、綺麗なオムライスの形にご飯がよそわれる。そしてフライパンで上手に玉子を焼いてくれて、最後にソースをかける。

このオムライス担当の方がいつも同じだった。
おばちゃんと言うのははばかられるけどお姉さんというのも失礼のような女性の方。
僕はスクリーングじゃなくてもごく稀に日吉のメディアセンターに勉強しに来たから、そのときにも学食にお世話になった。
何年も。
行きつけの三田のガストのおばちゃんと同じように、この方も顔なじみとなった。もちろん雑談なんてしないしお名前も知らない。けど、食券を出すときに一瞬眼が合うと目礼する。

スクリーングのある日、とてもオムライスが食べたかった。
でも日替わりソースも肉々としていて、食べられるメニューじゃなかった。
時間はピークが過ぎて人もまばら。
コミュ障のくせに意を決し、あの方に直談判に向かった。

「…あの…、ソースを掛けないでケチャップだけにしてもらうことは出来ますか…」
あの方は「え、あったかな」と戸惑いながらも扉の奥に消えていき、すぐにケチャップ片手に現れた。

僕はその日から、あの方に食券を出すときには頭を下げるようになった。

コメント