警備員のバイト 続き

今回のお話は前回「警備員のバイト」の続き。
警備員のバイトで知り合った、特に仲良くなった人や記憶に残っている人を何人かご紹介しよう。


まずは事務所の正社員の師匠さんだ。
僕のビリヤードの師匠になった人で、詳しくはそっちのエッセイを見ていただこう。
あたりが柔らかく、ガードマンさんに「頼むよー、お願い♪」とやるのがとても上手だ。
師匠に頼まれるとなんだか断れず、おじさんガードマンもヤンキーガードマンも受け入れてくれるのだ。


次は、ハードな現場ガードマンのエース。
土建屋さんや舗装屋さんからのご指名も多数。
国道とか激しい交差点とか、ハードな現場なら彼を送っておけば間違いない。
リーダになって他のメンバーを引っ張ってくれる。
でも駐車場とか真面目な現場には絶対送れない、天才君。
こちらも以前のエッセイでご紹介した天才バンドマン。
ガラはちょっと悪いけど、頼れるガードマングループの中心人物。

ハードな現場だと必ずブチ切れて文句を言ってくるドライバーさんがいる。
彼の現場でそんな人が現れると、彼は嬉々として駆けつける。
ある日の無線の現場でこのようなドライバーが現れたとき、「すいません、凄い文句言われています」と新人さん、「よし、俺が行く」と次に紹介するレゲエDJさん。すると天才君「待て、俺の獲物だ!」


次はそのレゲエDJさん。
このグループの一員だけど、ひとりだけ10歳くらい年上だった。
身体が大きく、声も態度も大きい。
でも仕事はできるし、大人なだけあってお客さん対応は柔らかく腰も低い。
なかなかに頼れる兄貴だった。
天才君はバンドマンだけど、レゲエDJさんはもちろんレゲエDJさん。
レゲエ大好き人間で頭は坊主。お酒が大好き。
天才君のライブにみんなで行った仲間のひとりだ。
自身もたまにレゲエのクラブでDJをしていて、一度だけ行ったことがある。
でもクラブの様子は覚えていない。僕が覚えているのはクラブのトイレだけ。
クラブに到着するなり小さいグラスを渡され、みんなクイッとやっている。
僕の番が来て、僕にも小さいグラスを渡された。
僕はお酒を飲めないけれど、なんかとってもちっさいグラスにチョットしか入っていないし、みんなやってるし、こんな真っ暗で音楽ガンガン鳴っててワケの分からない敵地で「No!」と言えるようじゃコミュ障じゃない。

クイっとやった。

僕の人生唯一のレゲエクラブの思い出は、トイレと、気持ちの良い夜風と、車の中は最高の休憩場所だった、というものだけになった。

そんなレゲエDJさんも年齢には勝てず、しばらくすると渋谷の眼鏡屋さんにご就職。
一度だけ遊びに行ったけど、スーツ着て真面目に仕事しているのがすごい違和感だった。


次にご紹介するのは、ウェーイ君。
彼がガードマンを始めたときは、なんというかちょっとやさぐれた身体の大きな18歳少年。
でも決して不良ではなく、ちょっと斜に構えた程度。
それが天才君のライブに行くようになり、他でもいろいろあったのだろう。
「ウェーイ!」になった。
1年くらいでガードマンを辞めた後もウェーイは続き、僕の友人がやっていた自動車整備工場の修理費をツケにしたうえに踏み倒した。
そしてとうとう本当のウェーイになったらしく、歌舞伎町まで通ってんのかと思ったら、地元の駅にもホストクラブがあったらしい。
そこで彼はローカルウェーイになり、その後は知らない。
まだ遊んでいた頃、一度だけ彼の家に遊びに行ったことがある。
彼は2匹猫を飼い始め、猫のお腹をワシャワシャしては本気で攻撃され、手が血まみれになっていた。まともに猫を飼ったことが無かった僕は、「この人頭おかしい」と思ったけど、今ならわかる。全然普通のことだった。


このグループ最後のご紹介は、ツヨシ君だ。
僕が一番仲良くなり、よく2人で一緒にいたのが2歳年下のツヨシ君。
背は平均ぐらいで細マッチョ。
筋肉質な体質らしく、何も筋トレをしていないのに脱いだらマッチョ。
顔はシュッとした草薙君とよく言われていて、結構モテるのに彼女一途だった。
現場もよく一緒になった。
無線を使う現場では、無線で歌を歌ったりしていた。

「じゃー次ルパン歌って」「マジッスか。真っ赤な〜 薔〜薇は〜… ラスト白のセダン 7658」

※歌:Pete Mac Jr.、作詞・作曲:大野雄二『ルパン三世のテーマ』日本コロムビア、1977

無線では、自分が最後に通した車の特徴とナンバーを相方に伝えるので、歌の合間にそれが入る。もちろんこんなことはやったらダメ。無線は通話ボタンを押している人ひとりしか話せないので、誰かが押していると緊急時にも連絡できない。だから無駄話は絶対駄目なのだ。
その現場には前日に研修を終えたばかりの新人君もいて、僕が「無線で遊んじゃ絶対ダメ」と教えていたらしい。僕らの歌の合間に焦って通話ボタンを押し無線連絡する新人君。後から思えば申し訳なかった。

「えー、ラスト、フジコちゃん」「え!?フジコちゃん?どれ?おばあさんじゃないッスカ!フジコちゃん確認流しま〜す」
こんなこともやったてた。

後に仲良くなったこの新人君「あの時はこの人、というかこの会社大丈夫か!?と思った」とのこと。余談だけど真面目な新人君は新築工事現場によく派遣され、そこに来ていたクレーン会社からスカウト、クレーンオペレーターに転職してガードマンを使う側になった。

ツヨシ君は僕らと出会ってからいろいろと狂いはじめ、髪型もいろいろやってドレッドヘアも僕とタイミングは違うけど、かなり長い期間やっていた。
スケボーにハマったり、古い車にハマったり、激しい音楽にハマったり、付き合う相手の趣味とかちょっと気になったら自分もやり、盛大にハマる。
明るい弟系の愛されキャラで、誰とでも仲良くなれちゃう。
でもネガティブな面ももちろんあって、なんだか放っておけないタイプ。
飼っていたグリーンイグアナに実の弟の名前を付けるという変な面も多いやつ。
高校時代から付き合っていた一途の彼女とは円満に別れ、お互いなんだか恋人ではなく家族な感覚になってしまったらしい。その数年後仕事関連で素敵な出会いがあり結婚。ログハウスのようなかわいらしい家を建て、大きな犬を飼い、今も幸せにくらしている。はず。


最後にご紹介するのは、グループでもなんでもないけど僕の記憶に強く残っているおじいさんの尺八さん。
とある長期の現場で一緒になったとき、ニコニコしながら「先生!」と呼んできて、楽しそうに話しかけてくる。
どうやら僕が研修した人のひとりだったらしい。まったく覚えていなかったけど。
当時僕は400ccのアメリカンバイクで現場まで行っていた。
現場がはじまってしばらくすると、尺八さんもアメリカンバイクで現れた。
「先生に憧れて買っちゃいました!」

誰にでもフレンドリーに話しかけ、職人さんたちには少しうざがられ、でも現場の横にある民家のおばあさんと仲良くなり、お茶の時間にはおばあさんがお菓子やお茶を出してくれるようになる。
この現場は舗装工事だったけど、そのおばあさんは尺八さんに「この空き地も舗装できないかしら?」と相談し、見事受注。舗装会社の社長さんにはたいそう喜ばれた。
そのうち、お茶の時間に尺八を披露し始める。
「最近練習してるんですよ♪」
初めて聞いた生尺八。
上手いかどうかは、まったくわからなかった。

それから数年が経ち、僕はとっくにバイトをやめていたけど、尺八さんも引退されていたらしい。
当時の仲間から、「あの人毎朝あそこに立ってるよ」と噂を聞く。
尺八さんは現役当時の警備員の制服を着て、ご自宅から徒歩1分の国道の横断歩道で、毎朝勝手に「緑のおばさん(おじさん)」をやっていた。
制服はダメだろ…



ここからは、警備員のバイトで特に印象に残っているエピソード

熱烈なファン

警備のバイトではごくたまに、イベント会場の警備があった。
地元にある文化会館のような施設。
かつて「8時だョ!全員集合」も開催されたこの会場で、今が旬の若手舞台女優の舞台がおこなわれることになった。
僕たち警備員はお客さんの誘導のほか、施設の見回り警備でも参加。
まずは参加者全員で会場に入りご挨拶。
会場内で打ち合わせをしていると、舞台袖から例の女優さんが!
遠かったのでよく見えなかったけど、スタッフさんや僕たちのほうにも頭を下げていかれた。
そして、開場の時間が近づく。
僕は天才君と2人で見回ることになった。
会場となる建物の裏手、ちょうど楽屋があるあたりの裏庭を見回って歩いているときに、木の陰になにやらいることに気づく。
無敵の天才君が見に行き、少年を捕まえて出てきた。
「お前なにやってんの?立入禁止なのぐらい分かるよね?」
「あ、あの、て、てがみを。。」
少年はあの女優さんの熱烈なファンらしく、ファンレターを書いてきたらしい。
激詰めする天才君。
彼はそんな場所からどうやって手紙を渡すつもりだったのだろう。
怖すぎる。
少年は主催者の方に引き渡し、その後どうなったのかは覚えていない。


お祭り

この警備会社の地元では、毎年秋に大きなお祭りがあった。
このお祭りの雑踏警備も僕たちの仕事で、毎年の恒例行事だ。
交通誘導から防犯まで、何かあれば無線で連絡し、お巡りさんと連携して巡回する。
交通誘導はいつも通り、人が多いくらいで普段の業務とあまり変わらない。
巡回警備はお祭り会場を見て回る。
ここの警備の仕事については、特に面白いエピソードはなく、つつがなく業務が終了した。
ただ僕が巡回していると、高校時代からの友だちが遊びに来た。
車と一緒に生まれて来たような車好き君とその地元仲間たち。
ここでなぜだか車好き君から、「BANDやろうぜ!」と某雑誌のようなセリフが。
ちなみに後日、バンド関係で某雑誌のライターをしているバンドマンと知り合いになった。どんなライブでも後日レポート1枚出せば会社持ちでチケットがゲットできるとか。羨ましい。
「バンド?面白そうだけど楽器なんてやったことないし。」
「大丈夫だよ。僕君なら出来る!俺はもちろんボーカルな!」
と、車好き君がボーカル、一緒に来ていた友だちがギター。
ベースなんて弦があって無理そう。
ドラムなら叩くだけ?ならできる?
と安易にやることになった。
もちろん遊びで。
ここから2年ほど、僕は少しだけバンドマン生活をすることになった。

祭りと言えば、警備は関係ないけれど、ウェーイ君。
彼の母親は赤提灯の飲み屋をやっていて、地元の小さなお祭りに焼き鳥の屋台を出すことになった。
ウェーイ君に誘われ、僕とツヨシ君で手伝うことに。
しばらくお客さんが途切れたとき、僕はなにを思ったのか「遊戯王カードあるよ!」と言った。
すると瞬く間に10人くらいのキッズたちが集まってくる。
「売り切れた」と言うと
「なんだよ!ねーのかよ!」
「嘘ついてんじゃネーよ!」
どうみても小学生のキッズたちがとっても怖かった。
嘘ついてごめんなさい。
あのとき遊戯王カードをゲットして大事に保管していたら、今頃プレミアついたのかな…


トンネル

最後のエピソードはトンネル前の現場。
あるとき台風で土砂崩れが発生して、道路を埋めてしまった。その復旧工事。
昼間は工事がおこなわれるので、普通の業務として別のガードマンさんが対応していた。
昼はそれでいいけれど、問題は夜。
片側1車線が土砂で埋まっているので、夜には簡易信号機を置いて対応することに。ただし、信号機が倒れたとか、事故が起きたとか、何かあったときのために誰かその場にいないといけない。
で、僕にその夜勤の打診が来た。
違う警備会社に転職していた師匠から。
夜勤なので給与も高い。
その場にいればいいので何もしなくていい。
なぜその会社の人がやらずに僕に話が来たのか考えもせず、大喜びでやることにした。
現場に車で行くと昼勤の人たちと交代。
夜中12時間の長丁場。
車もほとんど通らない。歩行者はもちろんいない。むしろいたら怖い。
現場の足場に登ったり、ぼっーとしたりして過ごす。
あまりにも詰まらないので、その時やっていたバンド仲間がゲームボーイを貸してくれた。
一緒に借りた「ドラクエ1&2」を難なく攻略。
子どもの頃はあんなに長時間楽しんだ大冒険だったのに、なんかあっという間に終わってしまった。
そして僕は、車の中で寝た。
そんなある日、たまたま現場を見に来た警備会社の上司に怒られた。
「せめて0時までは起きててくれ…」
「はい(ってことは0時過ぎたら寝ていいというお墨付きいただきだ!)」
僕は現場に行き少しプラプラし、車の中で寝ているだけで1万数千円もらえることになった。

その現場は、とあるトンネルの出口すぐにあった。
トンネルをくぐって向こう側に行ってしばらく走るとコンビニがあるので、真夜中何回も通っていた。
僕が毎晩12時間過ごしていた現場先のそのトンネルは、有名な心霊スポットだった。
途中でそれを知り、なんでやる人がいなかったのか納得。

でも全然心霊現象なんておきないし、かなり美味しいお仕事だった。

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